何かを書き留める何か

数学や読んだ本について書く何かです。最近は社会人として生き残りの術を学ぶ日々です。

2022年に読んだ本

雑な読書記録

買っても読まず、読んでも特に記録を残さずに思い出に残らないので、年単位で読んだ本と簡単な感想を残しておくことにしよう。 いつも、書評を書こうと思い立つもすぐに断念してしまうので「簡単な感想」にとどめてそのハードルを下げるのが目的である、と言っておきながら 2020年版2021年版と続き今年で3年目である。 特に役に立たない自分のための記録であるので適当に読み流してほしい。

小島庸平 『サラ金の歴史』(中公新書

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Twitterで見かけたので購入。 サラ金はこんだけえぐい金利を取っている!ひどい!みたいな内容ではなく、サラ金の起源となった筆者曰く素人高利貸しから団地金融からの個人への融資の歴史をたどりながらサラ金の1世紀について記述した本。 引用が多く、丁寧に書かれている。 金融の技術がどんどん磨かれていく過程は目にみはるものがあり、フィンテックを知りたければこれを読め、と言ってもいいのかもしれない。

市古貞次 校訂・訳 『日本の古典をよむ 平家物語』(小学館

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今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の予習として旅行先で購入して帰りの新幹線で読む。 小学館の『日本古典文学全集』の平家物語から、有名どころの話を抜粋したもの。 予習であったが、おそらくこれだけでは足りず、吾妻鏡や増鏡を読む必要がありそうだが、『日本古典文学全集』には含まれていない。 昔、学校で読んだ覚えがあるのは冒頭の「祇園精舎」と「敦盛の最後」だけで、有名な「那須与一」は未読だった。 全体的に仏教の影響が強く、悪いことをしたからこういう運命をたどる、という論調でわかりやすいといえばわかりやすいが、まあね、という。 「木曽最後」の存在は知っていたが、本当に木曽義仲の扱いが悪く、田舎者扱いで読んでいてつらくなる。

竹宮惠子吾妻鏡』(中央公論新社

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今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の予習として購入。 「マンガ日本の古典」というシリーズで判を大きくしたものが新しくでていた。 「吾妻鏡」は歴史書鎌倉幕府の初代将軍・源頼朝から6代将軍・宗尊親王までの将軍記、という体であるが、要は幕府側である北条氏らがまとめた歴史書である。 おそらく、「鎌倉殿の13人」の予習としては「平家物語」よりも向いているが、「平家物語」のあらすじを知っている方が楽しいだろう。 歴史的事実が存在するとして、それを幕府側がまとめて、それを書き写した本が複数あり、それを校訂する人がいて、それをもとに現代語訳して、それをマンガに落とし込む、という 工程を踏んでいるのでどこまで漫画版「吾妻鏡」が歴史的事実を伝えているのかは不明であるが、それでも「吾妻鏡」がどのような本であるかを知るには十分面白く読める本だと思う。

呉座勇一『頼朝と義時』(講談社現代新書

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今年の大河ドラマ「鎌倉殿の13人」の予習として購入。 筆者は「鎌倉殿の13人」の時代考証を担当していた研究者で、その考証の成果発表としてまとめられた本である。 なぜ「担当していた」と過去形なのかはあとがきを読んでもらうとして、「吾妻鏡」や「玉葉」、「愚管抄」を中心に軍記物語も参照しつつ、源頼朝北条義時という時代を切り開いた2人の実像に迫る新書である。 結局、平安末期から鎌倉時代初期を知るには「吾妻鏡」や「玉葉」、「愚管抄」を読むしかなく、それを素人がやるのは相当厳しい。 このように歴史学者が一次資料や先行研究を批判的に論じてくれるのはありがたい。 さて、『頼朝と義時』を読む限り、北条義時が表舞台に出てくるのは相当先だと思われるが、大河ドラマ「鎌倉殿の13人」は北条義時をどのように描くのか、楽しみである。

横田増生 『「トランプ信者」潜入一年』(小学館

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米国の大統領選挙を取材するために現地に潜入してミシガンの共和党ボランティアとして戸別訪問したり各種イベントを取材した成果をまとめた本。 横田氏と言えばユニクロにアルバイトで潜入取材ことで有名であるが、それを今度はアメリカの現地で、というすごい本である。 新型コロナウィルスの流行やBlack Lives Matter運動にも遭遇し、それに関する取材も含まれる。 もちろん、それも大統領選挙に有機的につながっている。 普段、アメリカの情報として耳にするのは情報工学系というか、西海岸の特定のエリア由来の情報が多く、ここまで生々しい話を見聞きすることはなく、貴重な記録である。 1000件戸別訪問して回答があったのは3割、その中でも興味深いものを文字にしているとはいえ、ここまで政治的な主張をはっきり述べるというのは国民性なのか、僕が政治の世界に関わらな過ぎている故か。 中身が濃いので胃もたれを起こすほどであるが、ぜひ読んでいただきたい。

植村峻『贋札の世界史』(角川ソフィア文庫

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タイトルは「にせさつのせかいし」と読む。「がんさつのせかいし」と記憶していたので、書店の検索機で全く引っかからず探すのに難渋した。 元々は2004年6月にNHK出版の生活人新書から出ていた同名の新書を加筆修正したもの。 紙幣があれば贋札あり、ということで日本や世界(北宋あたりから清まで、ナポレオンあたり、アメリカ独立戦争から開拓時代ぐらいまで)の贋札の歴史、そして戦争における贋札の利用が主題で合間にコラムを挟む形式。 個人的に面白かったのは3章の「戦争と紙幣偽造」であり、贋札で紙幣の価値を下げて経済ダメージを与える、というのはまあぱっと思いつくが、アメリカは経済ではなくプロパガンダの手法として贋札を利用していた、というのが目を引いた。 具体的には、遠目にはお金に見える程度の品質で(戦争末期の紙幣は品質が悪かった)ばらまいて、お金と思って拾ったら米国が作成したプロパガンダが書かれている…、という戦略で朝鮮戦争ベトナム戦争、そして直近だと湾岸戦争でも活用していたという。 もう少し、印刷技術の発展と贋札作成の発展を並列的に並べて技術の発展と絡めて論じられていればもっと面白かったかもしれない。 凹版印刷やらオフセット印刷など、印刷技術に関しては筆者にとっては当然のことなのかほとんど説明がなかった。 ぱっと読める分量なので、タイトルにひかれた方はぜひ手に取って欲しい。

ジョージ・チャキリス『わたしのウエストサイド物語』(双葉社

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1961年のミュージカル映画ウエスト・サイド物語』でアカデミー助演男優賞を受賞したジョージ・チャキリスの自伝。 原題は『My West Side Story: A Memoir』であり、幼少期から現在までを振り返るもので、筆者の性格がよくでている読んでいて楽しい自伝。 ミュージカル映画、特に『ウエスト・サイド物語』は歌って踊れないと厳しいから大変だな、と思っていたが、ジョージ・チャキリスは幼少期に合唱、下積み時代にダンススクールに通っていたとあり納得した。 契約や訴訟の話はやはりアメリカっぽいなと思ったし、エージェントで苦労するという話も当時最年少でアカデミー助演男優賞を受賞して一気にスターダムにのし上がった故であろう。

加藤弘士『砂まみれの名将―野村克也の1140日―』(新潮社)

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野村克也監督の阪神時代と楽天時代にある社会人野球のシダックス時代の逸話を描いた書き下ろし。 シダックス時代を「空白の3年間」(あまり知られていないという意味)として、本人に取材した言葉や関係者の証言を中心に構成されている。 似たような野球の監督ものノンフィクションである『嫌われた監督』と合わせて読むと、各々の野球論というか哲学の違いがわかって面白い。 基本的に筆者は野村監督に肯定的で評論というより伝記の性格が強い。 『嫌われた監督』のようなゾクゾク感はないが、心温まる話が多く野村監督のすごさを垣間見ることができる本である。

日経コンピュータ『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』(日経BP

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みずほ銀行が引き起こした大規模システム障害をポストモーテムと称して分析したもの。 『みずほ銀行システム統合、苦闘の19年史』はざっと読んだような、読んでいないような、と曖昧な思い出にとどまる程度にどちらかというと肯定的な立場から書かれていたが、 『ポストモーテム みずほ銀行システム障害 事後検証報告』は報道や報告書、取材を通して批判的に分析している。 様々な原因や分析は書かれているものの、やはり大事な情報が上に伝わらないというのは怖いものがある。 銀行のシステムのような大規模でクリティカルなシステムを構築したことも実装したこともないが、 コミュニケーション不全によってプロジェクトが混乱するというのはよく見聞きするし、実際に経験したこともある。 果たしてみずほ銀行は立ち直れるだろうか。

小泉悠『ロシア点描』(PHP研究所

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ロシア軍事が専門である筆者が実際にロシアに在住していた時期の体験をベースにロシアという国に住む人々や文化、そして政治について語るもの。 元々は語り下ろしだったらしいがそれを参考程度にして書き下ろしをしたそうである。 普段見かける外国人は西洋というか欧米系かアジア系で東欧系の人々は僕自身が認識している限りほとんど見かけない(以前の職場はロシア大使館が近く、ロシア人を見かけていたはずであるが)。 領土としてはお隣さんであるロシアという国に住む人々はどういう人なのか、というのをざっと知るにはうってつけである。 筆者の小泉氏はTwitterでたまに見かけるロシア趣味というか共産趣味?なマニアックな人、というイメージがあったがロシア軍事が専門とはつい最近まで知らなかった。 専門家というのは急造出来ず、いつどの能力が必要とされるのかわからないものである。

左巻健男陰謀論ニセ科学』(ワニブックス

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"普通の人"に向けて陰謀論ニセ科学、オカルトを説明する入門書として書かれた新書。 昨年、左巻先生の『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』を読んだが、それの続編ともいえる。 ニセ科学だけでなく陰謀論や科学を騙るようなオカルトも扱っている。

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題材を取り上げ、根拠を示してバッサリ切っていくテンポの良い本である。 とはいえ、訳の分からないオカルト話や水伝やEMなんとかは読んで辛くなる。 オカルトの話題だと「フォックス姉妹の告白」は唖然とするし、陰謀論の「オズウェル事件」は結末を知らなかったのでなるほど、と感じた。 高校生や大学生あたりで読むと色々と整理されてよさそうである。

ところで、この本はワニブックスの新書であるのだが、同月に発売されるのが「「バイオエネルギー理論」で人生を変える」であり、さっそく何かが試されていると思うのだが気のせいだろうか。

トーマス・レーマー『ヤバい神』(新教出版社

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原題はフランス語で『Dieu Obscur』、英語版は『Dark God』で意訳とはいえ新教出版社からでたとは思えないぐらいすごいタイトルである。 サブタイトルの「不都合な記事による旧約聖書入門」とある通り、旧約にある「イサクの燔祭」やヨシュア記に見られる傍から見ればすごい記述をどう理解するか、という具合である。 筆者の主張としては本書25ページに集約されている。

現代の学者の中には、旧約聖書が神について述べている箇所の一部を否定する者もいる。この否定は、ヘブライ語聖書を無批判に読むことに起因しているように思える。つまり、彼らは旧約聖書自体の歴史的状況や文化的な環境を考慮に入れていないのだ。旧約聖書の神には歴史があり、それを無視してはならない。仮に今、神について書かれたテクストの選集を作り、教会教父、中世のスコラ哲学者、宗教改革者、啓蒙主義者、無神論の哲学者、そして現代の偉大な神学者の作品を収録するとしよう。収録された作品をすべて同じ時代に書かれたものと考えて、歴史的な背景を考慮に入れずに読む人などいない。むしろ、読者には個々の作品を、特定の時代や環境の産物として読むだろう。

本書を読むと、やはりバビロン捕囚が旧約のテクストや当時の人々の考えに決定的な影響を与えていることがわかる。 故郷を追われて、文化も違うところで連れてこられたときにどうやって自分たちのアイデンティティを守るのか、その答えの1つが旧約のテクストに現れているのだろう。

旧約聖書を読んだことがないと手に取って読んでもあまり面白くないかもしれないが、昔の人々がどのようなことを考えていたのかを知るにはよい本だと思う。

赤塚不二夫 『ギャグ・マンガのヒミツなのだ!』(河出書房新社

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きっかけはわしゃがなTVの「星野源の血肉となった秘蔵のコレクション、お見せしちゃいます!」である。

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星野源が私物として紹介した『ラディカル・ギャグ・セッション—挑発する笑いの構造』は1988年の本であり、フジオ・プロダクションが増補・文庫化したものが 『ギャグ・マンガのヒミツなのだ!』である。 長谷邦夫氏が聞き手・構成とある通り、赤塚不二夫が自分の作品や半生を惜しげもなく語る形式となっている。 増補・文庫化にあたって明らかな事実誤認、連載順や担当編集者の変遷の記憶違いは本文中で括弧書きで注が入っているが、それ以外の修正箇所はわからないがそこまで違いはなさそうである。 長谷邦夫氏の構成のおかげか、語り形式でもまとまっていて読みやすく(僕の場合、筆者が語りかけるように書かれた本は読みづらいので避けることが多い)、赤塚不二夫のギャグに対する姿勢を存分に知ることができる。

西田亮介『ぶっちゃけ、誰が国を動かしているのか教えてください』(日本実業出版社

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主に高校生に向けた民主主義や政治、メディアに関する本。 専門書とは異なり、わかりやすい説明(ただし、高校生を下に見たような馬鹿にした口調ではない)で説明する本で、18歳から参政権があるのでそれにあわせた本であろうが、社会人と呼ばれる人々でも2時間弱で読み通せる本である(きちんと考えて読むとそうはいかないが)。 この手の本、若い人に向けたにしては筆者の主張がはっきり書いてあり、面白い。 まあ、筆者の主張含め鵜呑みにせず考えていくべきなのであるが。

渡辺晋輔・陳岡めぐみ『国立西洋美術館 名画の見かた』(集英社

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上野にある国立西洋美術館学芸員である筆者らによる西洋美術史の概説。 国立西洋美術館の展示物を中心に、15世紀から19世紀末の絵画を「(線)遠近法」を基軸に、何を描くかからどのように描くか、という流れを元に西洋美術史を概観する。

つい最近、国立西洋美術館に行った。 以前に行ったのは学部か修士の頃であり、正直よくわからなかったが、年を取り多少題材として扱われている事柄、特に宗教画は何をテーマにしているのかを理解できるようになった。 この本はその先というか、どのように描いたのか、という考えや流れを知ることができる。 美術館の学芸員というと東京芸大美術大学の出身の人かなと思っていたが、筆者らは東大大学院である。 絵画1枚1枚に、感覚的な事柄をここまで言葉にして説明できるのはさすがだと思う。

ところで、小学校、中学校でそれぞれ図工、美術という教科があったが、絵の技法や歴史を体系だって学ぶことなく、いきなりやれ、と言われて困る、というケースしか覚えにない。 義務教育でやる範囲だと自力で遠近法や描き方を発見するのを目指しているのだろうか? 自分は知らないだけなのか、才能がないのかはいまだに知らないが、僕の場合は才能がないのだろう。

岩政大樹『サッカーシステム大全』(マイナビ

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元日本代表である筆者が書いたサッカーのシステム(試合中のポジションなど)を解説した本。 個人的にサッカーに詳しくなく、ほとんどやったことがないのだが、なんとなく気になって表紙だけ見て買った。 複雑なシステムを、大きく分けてディフェンスの人数とボランチの人数で分類して解説している。 本当にざっとしか読んでいないのでシステムに関する良し悪しや、記述の妥当性は何とも言えないが、 各システムの攻守それぞれにおいける利点と欠点、発展形の説明などサッカーをきちんとプレーした人やコーチにあたる人が読むと 考えが整理されてよさそうである。 サッカー選手は90分間もシステムのことを考えながら走り続けるのは大変そうである、と他人事ながら考えていた。

藤子・F・不二雄ドラえもん』(小学館

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藤子・F・不二雄大全集の『ドラえもん』全20巻を電子書籍で一通り読んだ。 紙媒体で何冊か買っていたが、その分厚さにより置く場所がなく、集める気力がなかったが、電子書籍版が出たことによって無事に読み通すことができた。 てんとう虫コミックスの単行本45巻は作者の自選集でありすべてではない。 過去に『ぼく、ドラえもん』という雑誌の付録に単行本未収録作品がついてきたが、それでも「幼稚園」など低学年向けの作品は収録されていないこともある。 大全集は幻となったガチャ子含めすべて含まれている。 ガチャ子が関わる話は確かに話が他のドラえもんの話とは異なりまとまらない印象を受ける。 ドラミもその危険がある存在であるが、ドラミに関してはうまい具合に話がまとめられている。 有名な中編「ガラパ星から来た男」は初めて読んだが、タイムマシンが絡む複雑な話でありうまく膨らませれば映画にもできそうである。 ただ、テーマ的に創生日記と被るので難しいか。

藤子・F・不二雄大長編ドラえもん』(小学館

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藤子・F・不二雄大全集の『大長編ドラえもん』全6巻、ご存じの通り、映画の原作漫画である。 以前、映画25周年記念に発刊された『大長編ドラえもん大全集』が発売された。 第一巻(恐竜から魔界大冒険まで)がすぐに売り切れて入手が大変だったが、父親が帰り道にあった本屋でたまたま見つけて買ってきてくれたのを覚えている。 『大長編ドラえもん大全集』は25周年記念で恐竜から時空伝までをまとめたものだったが、『大長編ドラえもん』は藤子・F・不二雄が書いた恐竜からねじまきシティまでを扱っている。 個人的に好きなのは、大長編としては後半の作品であるが雲の王国と大迷宮である。 どちらも、ドラえもんが実質的に不在の中、どうやってのび太たちが危機を乗り越えるのか、背後にある重いテーマと合わせて魅力的な作品である。 コマ単体で好きなのが恐竜のプテラノドンの大群に遭遇する場面で、川崎にある藤子・F・不二雄美術館で原画を見た際はその書き込みの量がすごかった。

藤子・F・不二雄『SF・異色短編』『少年SF短編』『中年スーパーマン左江内氏未来の想い出』(小学館

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小学生の時、周りに読んでいる人が誰もいなかった「小学六年生」の付録に『おれ、夕子』がついていて読んだ思い出がある。 高校生の時、地元の本屋で小学館文庫の『藤子・F・不二雄[異色短編集]」を見かけて買って読んだらものすごい衝撃を受けた。 「藤子・F・不二雄SF短編PERFECT版」が欲しかったが、絶版だった。 以降、中公文庫の短編集を買ったり何とかして藤子・F・不二雄が書いた異色短編を集めていた。 学部の「文章表現表」なる講義で課題が出た(多分、書評やら漫画OKの書籍の紹介文を書け、という課題)際は異色短編、特に『ミノタウロスの皿』を題材にレポートを書いた。 優か秀をもらったはずである。 べたであるが、好きな作品は『ミノタウロスの皿』と『カンビュセスの籤』である。 なんて月並みな感想なのだろう。

呉座勇一『武士とは何か』(新潮社)

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平安中期から戦国時代まで、武士と呼ばれた人たちによる創作を含む言葉を元に武士のメンタリティに迫る本。 現代の人々が考える武士は『葉隠』の影響を受けた主君に忠誠を誓う誉れ高いイメージがあるが、中世の武士はそうではなく、例えば畠山重忠の「謀反を企てんと欲するのよし風聞せば、かえって眉目というべし」という言葉がある通り、仕える価値がない主君には従わないといった側面もあった、など従来のイメージとは異なる中世の武士に迫る論考が中心である。 論考と言っても、言葉を手掛かりに中世の武士を最新の研究に基づいた簡潔な論述で、エッセーのように気軽に読むことができる。 大河ドラマ「鎌倉殿の13人」を視聴した後だと、源実朝の「源氏の正統、この時に縮まりおわんぬ」が心にしみる。 だが、これは吾妻鏡の記述なので本当に実朝がそう言ったのかはわからない。

呉座勇一『戦争の日本中世史』(新潮社)

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主に鎌倉末期から室町末期(戦国時代に入るまで)ぐらいの主に南北朝内乱を主題にした論述。 悪党とは何か、や下剋上とは何かなど従来の学説に対して最新の研究に基づいて論証したり反駁したりする本で『武士とは何か』と比べると本格的な論考で1つ1つ読むのが大変である。 下剋上!成り上がるぞ!みたいなイメージとは裏腹に細かい根回しやら死を恐れる武士など『葉隠』の「武士道と云ふは死ぬ事と見付けたり」なんて役にも立たない現実を生きる武士の姿が見えてくる。 1つ1つの章が重めなので読み進めるのは大変であるが、これもまた、武士とは何だったのかというのを知る手がかりになると思う。

呉座勇一『戦国武将、虚像と実像』(KADOKAWA

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戦国武将の明智光秀斎藤道三織田信長豊臣秀吉石田三成真田信繁徳川家康の各時代(江戸時代、戦前、戦後)における人物像(虚像)の変遷に関する論考。 大衆的歴史観というか、普通の人々が戦国武将をどのように評していたのかという研究(サーベイ?)である。 特に秀吉の評価の変遷はその時代に都合の良い要素だけ取り出して持ち上げてきた流れが色濃くあり、ちょっと胸やけがした。

筆者の問題意識はP.304に集約されている。引用する。

加えて、本書で見たように、英雄・偉人の人物像は各々の時代の価値観に大きく左右される。 歴史から教訓を導き出すのではなく、持論を正当化するために歴史を利用する、ということが往々にして行われる。 日中戦争を正当化するために秀吉の朝鮮出兵を偉業と礼賛する、といった語りはその代表例である。 問題意識が先行し、先入観に基づいて歴史を評価してしまうのである。

一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末』でも似た問題意識を指摘していた。 上記の引用も司馬遼太郎の作品に対する話から「加えて」と続く。

ところで、毎章に登場する徳富蘇峰と「近世日本国民史」にびっくりした。 以前、榛名山伊香保温泉に行った際に徳冨蘆花の記念館を訪ねたが、その際に兄である徳富蘇峰を知った。 歴史を学ぶものならば必ず遭遇するのだろう。

読売新聞大阪本社社会部『情報パンデミック』(中央公論新社

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読売新聞の調査報道「虚実のはざま」の連載を加筆修正したもの。 全6章で最初の4章は米国大統領選、新型コロナウィルス、ウクライナ紛争を巡る陰謀論に翻弄された人たち、発信者たちや実際に家庭が崩壊した事例がまとめられている。 5章はディープフェイクなどちょっと毛並みが違う内容で、6章は提言である。

この手のテーマはTwitterで熱心に追いかけるフリージャーナリストの記事はよく見かけていたが、読売のような大手メディアもきちんと追っていることを知った。 さすが新聞記者だな、と思うのはきちんと名刺を出しながら取材対象に取材に行く姿である。 個人的にはとてもじゃないが怖くて取材になんていけないが、仕事とはいえすごいと感じた。

扱われているテーマは重く辛いテーマでもあり、読んでいて楽しくなる本ではないが、近くで何が起きているのかを垣間見るにはとても良い本だと思う。

紀藤正樹『カルト宗教』(アスコム

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長年、カルト問題に取り組んできた弁護士による解説本。 カルトの定義の難しさからか、具体例が中心であり、かつ事実・事例と筆者の意見・提言が入り乱れる構成でなるべく早めに出版することを優先したのかな、という印象を受ける。 特に『情報パンデミック』を読んだ後だと構成の違いをより強く感じる。 新書のようなサイズでざっと読めるので、概要を理解するのには十分役に立つ本である。