何かを書き留める何か

数学や読んだ本について書く何かです。最近は社会人として生き残りの術を学ぶ日々です。

2021年に読んだ本

雑な読書記録

買っても読まず、読んでも特に記録を残さずに思い出に残らないので、年単位で読んだ本と簡単な感想を残しておくことにしよう。 いつも、書評を書こうと思い立つもすぐに断念してしまうので「簡単な感想」にとどめてそのハードルを下げるのが目的である。 例年、2月は本を読みたくなるらしい。寒いからだろうか。

河野啓『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』(集英社

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Twitterで見かけた引用が衝撃的で思わず手に取って読んだ。 「七大陸最高峰単独無酸素登頂」を目指した栗城史多氏を過去に取材していたテレビマンがその死を追ったノンフィクション。 「Twitterで見かけた引用」だけだと怪しい人たちに取り込まれてしまった悲劇なのか、と思ったがそうではなかった。 「七大陸最高峰単独無酸素」という単語だけでも違和感があることに気付かなかった。

栗秋正寿『山の旅人 冬季アラスカ単独行』(閑人堂)

https://kanjindo.com/books/91014901.htmlkanjindo.com

Number Webの記事で栗秋正寿氏の記事を読んで関心したので氏の著者を読んでみた。 『アラスカ 垂直と水平の旅』(山と溪谷社)にフォレイカー冬季単独登頂とハンターで救助された記事を追加した増補改題版。 カプセルスタイルと呼ばれる登山方法やひたすら待つ登山よりも、個人的には冬山に登る前の用意周到な準備に感銘を受けた。 どことなく九州工業大出身さを感じてしまった。

安田峰俊『現代中国の秘密結社 マフィア、政党、カルトの興亡史』(中央公論新社

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『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』に着目したTwitterとは安田氏のツイートであった。 氏の最新作である新書を手に取った。 「「秘密結社」を知らないで、どうやって現代中国がわかるのか?」というのが根底にあり、その理由がきちんと最後に書かれている。 前半の洪門周辺の話題は漢字だらけで読解がしんどかったが、後半の宗教系結社はほんのちょっとだけキリスト教の知識があったので理解しやすかった。

若杉公徳デトロイト・メタル・シティ』(白泉社

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映画が公開されたころに読んでいたが、Twitterで画像を見かけて久しぶりに読みたくなって読み返した。 DMCで好きな話はラジオで放送禁止用語を言わせる回とアートキワ荘が刺客によってメタル荘に変貌していく回が好きである。 いずれも、DMCのフロントマンであるクラウザーさんが表には登場しないのにその存在感を存分に発揮するパートである。

今井むつみ『学びとは何か』(岩波書店

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人はどうやって学習するのか、知識とはなにか、といった話題を認知科学の立場、例えば赤子や幼児が母語を獲得する過程に着目して迫る、といった感じ。 知識は単に積み上げるのではない(筆者はドネルケバブモデルと呼んでいる)という話は非常に耳の痛いものであった。

鎌田浩毅『理科系の読書術』(中央公論新社

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学部生の時に読んだけど、今、手元にないし改めて読むかと思い購入したが、学部生時代に読んだのは『成功術 時間の戦略』であり、未読であった。 前半は理科系というよりは本を読むのが苦手な人に向けた読書術を説明する。小説や物語系本や頭から通しで読む必要がある本を除いた、いわゆるビジネス書を読む際に有効な手法が多かった。 後半は仕事を効率よく読み進めるための読書術として、アウトプット優先の読書術や書店の活用方法、メモの取り方などを解説している。 自分にとっては、後半の方が役に立ちそう(であり、実践するのがなかなか難しい)であったが、やらないと身につかないのでやるしかない。

中谷宇吉郎『科学の方法』(岩波書店

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『理科系の読書術』で副読本としておすすめされていたので購入した。 このように積読は増殖するのである。 1958年に書かれた新書で、科学万能論のような風潮があったような背景を感じる。 自然科学の本質と方法、解ける問題と解けない問題とは等を論じている。 科学は取り扱いやすい問題だけを解くことができ、それが科学の限界であるというのが筆者の主張であるが、ふと、トーマス・クーンの『科学革命の構造』を思い出した。 言わば通常科学の世界であり、それの限界が来ると科学革命が起きる、という具合。

峯村健司『潜入中国 厳戒現場に迫った特派員の2000日』(朝日新聞出版)

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朝日新聞の記者である筆者が中国の特派員として取材した記録をまとめたルポタージュ。 新書は2019年9月であるが、書かれていることは2000年代後半から2010年代前半が中心でギリギリ潜入取材ができたころの記録。 私はジャーナリズムとは何かと論ずる資格も何もないが、「ジャーナリズムとは何ですか?」ともし聞かれたらこの本を読めばわかる!と言える気がする。 なお、峯村記者は朝日新聞でLINEに関わる疑惑をスクープした記者でもあり、そこから興味を持ってこの本を読んだ。 2021年3月現在、Web経由だと出版社取り寄せとなるがASA経由だと送料無料で出版社から直接取り寄せなどもできるらしい。

ジョン・キャリールー 『BAD BLOOD シリコンバレー最大の捏造スキャンダル 全真相』(集英社

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血液一滴であらゆる病気が調べられると謳ったセラノス社の虚構を暴いたノンフィクション(調査報道)。 プロローグから不穏な様子が描かれ、前半は『デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場』のようなモダンホラー要素を感じつつ、 後半は虚構が暴かれると共にセラノス社が雇った弁護士団と掲載紙であるウォールストリートジャーナルとの戦いに息をのんだ。 息をのんだというか、胃がもたれたというか。 次々と有力者を巻き込んでいくエリザベス・ホームズ氏の手法には恐怖すら覚える。 事件としては一応それなりの決着を得たが、このような構造は今後も出てくると思われる。 ところで、原著と比べて邦訳はかなり表紙がダサい。 わかりやすいといえばわかりやすいが、説明文は帯に載せて表紙は原著を使えなかったのだろうか。

外山滋比古『古典学』(みすず書房

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地元の図書館で借りて読んだ。 タイトルから「古典はいいぞ」という趣旨の本かな?と思っていたが、中身は文学論で、古典と呼ばれる文章がどのように古典となるのか、というのを論じた本である。 学術書というよりは連続したエッセイの様にスラスラ読めて、かつ興味深い内容である。 単行本も著作集も在庫切れなので古本や図書館で探すしかない。

ジェントルメン中村『セレベスト織田信長』(リイド社

www.leed.co.jp

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『わしゃがなTV』の「【安元洋貴】むッ!!胸がときめくッ!!安元さんの贅沢(ラグジュアリー)私物紹介【ホッコリ】」にて声優の安元さんが紹介していたのを見て気になって購入した。

youtu.be

「〝セレブ〟の最上級、最高・究極に達したセレブのことを、人は〝セレベスト〟と呼ぶ!! セレベストたちの合戦「おもてなし」で相手を屈服させ、究極セレブ界の頂点を目指せ!!」とあるように、何を言っているのかよくわからないが、まあ何も考えずにただ登場人物たちが織り成すおもてなしをそのまま読者も体感して読む本である。 「なぜ劇画なんだろう?」とも思ったが、リイド社のリイドカフェに掲載されたとわかりすぐに納得した。

ヨハン・ハリ『麻薬と人間 100年の物語』(作品社)

www.sakuhinsha.com

ここでいう100年とは、米国でハリソン法なる法律が制定された1914年からの100年以上に渡る麻薬戦争のことである。 ビリー・ホリディ、ハリー・アンスリンガー、アーノルド・ロススタインの話から始まり、現代における麻薬の被害者、麻薬戦争と戦う人々、カルテルに属していた人物などの綿密なインタビューが続く。 読むとすぐにわかると思うが、尋常ではない量の原注がある。 これは原著者が1次資料に丹念に、かつ批判的に調べ上げている証左である(その代わり、多すぎるので通読する際はちょっと邪魔でもある…)。 そもそも麻薬戦争は正義なのか、麻薬常習者は排除されるべき存在なのか、依存症となる原因は何か、など今までの考えを改めて考えるきっかけとなる本である。

『コンピューティング史』(共立出版

www.kyoritsu-pub.co.jp

原著タイトルは『Computer: A History of the Information Machine, 3rd Edition』であり、計算機の歴史、というよりは計算機と情報処理の歴史をまとめたもの、という本。 学部で計算機の歴史の話題になると必ず登場するのがチャールズ・バベッジの階差機関・解析機関、ENIACであるが、本書はそれよりも前、人間が計算機(計算手?)として活躍していた数表計算の話から始まる。 学術寄りの記述なので特定の人物や企業をヒロイックに描いたり、貶めたり、といったことはなく、客観的な話が続く。 それでも、中盤の話題はIBMが中心である。 原著は2014年発行なのであまり最近の話題、特にクラウドコンピューティングの話題はほとんど存在しないが、10年ごとに改訂されているようなので10年後にはその辺の記述も充実するのかもしれない。 読んでいて思ったこととして、2つの大戦、冷戦を背景とした資金の充実振りと、IBMマイクロソフトマーケティングに秀でた企業であること、がある。

Jonathan Rasmusson『ユニコーン企業のひみつ』(オライリー・ジャパン

www.oreilly.co.jp

ご恵投いただいた本。個別記事を書きました。

xaro.hatenablog.jp

Jules Boykoff『オリンピック秘史 120年の覇権と利権』(早川書房

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原著タイトルは『Power Games: A Political History of the Olympics』でオリンピックの権力闘争や政治の側面を強調しているが、邦題はやや緩和した印象を受ける(副題は原著のニュアンスをもっているが)。 元サッカー選手でバルセロナ五輪の米国代表で現在はパシフィック大学の先生である筆者が、オリンピックの裏側で行われる権力闘争を描いた本である。 原著は2016年、邦訳は2018年で1896年のアテネ五輪から2016年のリオデジャネイロ五輪までを取り扱っている。 近代オリンピックは最初から矛盾を抱えた存在であった。 女性差別や人種差別の問題、国家間の争いの場など、時期に応じて焦点は異なるものの、全くもって平和の祭典ではないことがわかる。 1972年のミュンヘン五輪でもテロ攻撃が生じても中止しなかった過去が2021年の東京五輪を強行策を裏付けているように思える。 読んでいて非常につらい本であった。 賢明な判断(中止)に至ることを祈るしかない。

左巻健男『暮らしのなかのニセ科学』『学校に入り込むニセ科学』(平凡社新書

www.heibonsha.co.jp

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ニセ科学」とは「科学っぽい装いをしている」「科学のように見える」にも関わらず科学とは言えないものを指す、としている。 様ははっきりとした根拠がないのに科学っぽい何かである。 『暮らしのなかのニセ科学』は2015年の『ニセ科学を見抜くセンス』(新日本出版社)の大幅な加筆修正をしたもの、 『学校に入り込むニセ科学』は学校教育にまつわるニセ科学をまとめた本で、同じようなテーマを扱っているせいか似た記述、説明もある。 水伝やEMなんとかが際立って異常な動きをしていることがすぐにわかる。 『暮らしのなかのニセ科学』に登場するニセ科学は単に根拠がないのにあると見せかける詐欺行為と片付けることも可能である(もちろん、医療系のニセ科学はそんな生易しい話ではない)。 一方、水伝やEMなんとかはオカルトや宗教めいた話であり一層たちが悪い。 2冊あるが、1冊だけ読むなら『学校に入り込むニセ科学』がおススメだろうか。 私の高校の同級生は教員を目指す人が多く、本文に登場する魑魅魍魎に取り込まれていないか心配である。

ロネン・バーグマン『イスラエル諜報機関 暗殺作戦全史』(早川書房

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Twitter早川書房電子書籍が半額セールでおすすめ本として紹介されていたので購入。 ただし購入したのは電子書籍ではなく紙媒体で上下巻合わせて7000円である。 タイトルからイスラエルの情報機関、特にモサドイスラエル諜報特務庁)の活躍があれこれ書いてある本かと思ったが、 実際はイスラエルという国がどうやって生き残っていったか、というのが描かれたノンフィクションである。 どことなく、国レベルでやるDX(デジタルトランスフォーメーション)ってこういうのを指すんだろうな、と思う場面もあった(最終的には暗殺であるが)。 紙媒体で7000円を払う価値がある重厚な本なのでオリンピックを見るよりもこの本を読むのがおススメである(ミュンヘンオリンピックの話題もあるよ)。

バージニア・ウルフ『病むことについて』(みすず書房

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インフルエンザに罹患した際の心象を描く表題作などのエッセイ・短編16編を収めた作品。 バージニア・ウルフといえば、THE BLUE HEARTSの『手紙』に登場するので名前だけ知っていたが、作品は初めて読んだ。 病気にかかった際の心境や、講演に対する批判、書評や伝記の評論、源氏物語や、不思議な感情になる短編2つなど。 更に短編を読んでみたいが、みすず書房の本は単価が高いのでやや躊躇してしまうのと、近くの本屋では入手できず、ほぼ新宿まで行くことになるので大変なのだ。

知的風ハット『サメ映画大全』(左右社)

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サメ映画と呼ばれる特異なジャンルに属する映画をまとめた本。 映画に関する本というと軽妙な語り口で面白おかしく書いてある、というイメージがあったが、『サメ映画大全』は淡々と、かつ冷静な筆致で数多のサメ映画が紹介されている。 時系列順で、1960年から1980年、1990年、2000年…と概ね10年単位で章を分けていて、なんとなく年代ごとに影響を与えた映画がわかるようになっている。 映画や物語構成に関する専門用語がなんの断りもなしに使われているのである程度の事前知識があったほうがより楽しめるかもしれないが、なくても十分楽しめる。

アマル・エル=モフタール、マックス・グラッドストン『こうしてあなたたちは時間戦争に負ける』(早川書房

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新☆ハヤカワ・SF・シリーズの1冊。Twitterで絶賛している方がいたので気になって読んだ。 英語圏SF小説に関する賞も複数獲得している小説である。 あらすじを引用すると「時空の覇権を争う二大勢力〈エージェンシー〉と〈ガーデン〉の工作員レッドとブルーは、幾多の時間線での戦いを経てお互いを意識し、秘密裏に文通する関係になるが…」であるように、 2人の工作員の文通が中心である。 文通と聞くとSFっぽく聞こえないかもしれないが、その方法はまさにSFであった。 小説を読むのは本当に久しぶり(学部以来?)で、SFは星新一以来(高校生以来?)ではなかろうか。 SFを読む者にとっては常識かもしれない、ストランドやらシフトやら見知らぬ単語が頻発して最初は引いてしまったが、気にせず読み進めると、段々と2人の文通が繰り広げる世界が楽しくなってくるから不思議である。 気軽に読めるサイズなので、気になったらぜひ読んでみていただきたい。

ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン『リモートワークの達人』(早川書房

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かなりタイムリーなタイトルであるが、2014年1月に発売された『強いチームはオフィスを捨てる』の改題文庫化である。 『強いチームはオフィスを捨てる』も読んだことがある。 以前に読んだ時は「リモートワークに憧れがある毎日通勤している会社員」であったが、今では「毎日リモートワークを探り探りこなす会社員」となった。 著者どちらの記述なのかわからないが、全体的に挑発するような、何かに挑戦するような文体であると感じたのは以前と変わらない。 一方で、着目する点はいかにリモートワークを始めるかという導入部分から、どのようにリモートワークをやっていくのかという運用部分に移ったのは興味深い。 それにしても、10年足らずで世の中は大きく変わるものである(なんて月並みなコメントなんだろう)。

ジェイソン・フリード、デイヴィッド・ハイネマイヤー・ハンソン『NO HARD WORK!』(早川書房

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『リモートワークの達人』から連鎖して読み始めた。 原題は『IT DOESN'T HAVE TO BE CRAZY AT』で、『NO HARD WORK!』は本の主題に着目した意訳である。 もう一つの主題は「穏やか(カーム)」であり、会社も会社員も働き過ぎずに余裕をもって働こう、という本である。 中々説得力がある主張が並ぶが、果たして自分の置かれている環境にどこまで適用できるかはちょっと自信がない。

一坂太郎『司馬遼太郎が描かなかった幕末』(集英社新書

shinsho.shueisha.co.jp

Twitterで見かけて興味を持ち購入。 司馬遼太郎の『竜馬が行く』『世に棲む日日』をベースに歴史資料に基づく史実と司馬遼太郎が描く歴史を比較する。 筆者の問題意識に小説を史実として受け取り、それをベースに政治活動を行う人々に警鐘を鳴らす、というのがあり、 司馬遼太郎の小説家としてのすごさを認めつつも次々と史実と小説の虚構を暴いていく。 どの書物でも、書いてあることを一字一句正しいと思い込むと碌なことが起きないが、歴史小説もまたそうなのである。 司馬遼太郎作品を全く読んだことがない私でも興味深く読むことができたので、坂本龍馬好きの上司に振り回されている人や 「おもしろきこともなき世をおもしろく」を座右の銘にしているやつは面白くないという典拠不明の悪口が好きな人(辞世として有名であるが、おそらく辞世ではない、とも本文にある)におススメである。

村田らむ『人怖』(竹書房

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Twitterで見かけたので購入。 筆者が直接体験したもの、直接聞いたもの、識者による寄稿からなる、人間の狂気による恐怖体験をまとめたもの。 超常現象や幽霊ものとは異なり、現実的ではないエピソードはないが、現実的とは思いたくないエピソードが満載である。 各ページで語られる話に理由やカタルシスなど一切なく、ひたすらに訳の分からない話を読むことになる。 筆者が直接体験したもの以外は確実な物証はないものの、怖さは本物である。 読んで楽しくなる本ではないが、興味がわいてきた人はぜひ読んで欲しい。

藪正孝『県警VS暴力団』(文春新書)

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本屋で見かけたので購入。 筆者は福岡県警の元警察官で、特定危険指定暴力団である工藤会との戦いの記録がメインの新書。 全体で2部構成で、前半がいわゆる頂上作戦までの記録、後半がその経験を踏まえた提言となっている。 警察ポジショントークは見受けられるものの、特に前半の記録部分は目を見張るものがある。 ソフトウェアを作る仕事でも入社時やイベント参加時に反社会的勢力との関わりがない旨の誓約書(名称は忘れた)を書いたりチェックボックスにレ点を入れたりするが、 実際に反社会的勢力に属する人々に遭遇したことはない。 IT業界におけるそのような事例がもしあれば知りたい。

鈴木忠平『嫌われた監督』(文藝春秋

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気になる記事があると「週刊文春」を買うのであるが、『嫌われた監督』の連載が行われている時期があった。 これが目当てで「週刊文春」を買っていた訳ではないが、掲載されているとつい読んでしまい、引き込まれていた。 そのうち連載がまとまって文春から出るだろうと思っていたら、やはりというか、当然というか出版されたので購入した。 題名の通り、プロ野球中日ドラゴンズの監督を務めた落合博満氏の監督時代に取材した番記者の経験を軸にまとめたノンフィクション。 各章には12人の選手、コーチ、球団スタッフの名前があげられ、彼らの成長や変化が中心であるが、 それと同時に、筆者の記述を信じるならばあまり優秀な記者ではなかった筆者が中日の番記者になり、落合監督との関わりを通して成長していく物語でもある。 もちろん、ダメな人にスポーツ紙がプロ野球球団の番記者を任せないと思うので、うだつの上がらない記者、のような描写は筆者の謙遜だと思う。 買った日に1章だけ読んで寝よう、と思い読み始めたら止まらず、気付いたら朝になっていたぐらいの面白さなので、ぜひ読んでほしい。

レーモン・クノー『文体練習』(朝日出版社

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朝比奈弘治氏の翻訳。 『文体練習』自体はアンサイクロペディア記事で存在自体は知っていたが、読んだことはなかった。 ちょっと機会があり、おそらく存在を知ってから10年ぐらいの間隔をあけて読み始めた。 同じ物語を99通りの文体で記述する、という取り組みであり、イタリア訛りのフランス語やらインチキラテン語やら実質的に翻訳不可能な部分はいんちき関西弁やそれっぽい漢文に置き換えるなど翻訳者による翻案が行われている。 まさに言葉遊びのお手本であり、同じ事をしろと言われても恐らく難しいだろう。