何かを書き留める何か

数学や読んだ本について書く何かです。最近は社会人として生き残りの術を学ぶ日々です。

2020年に読んだ本

雑な読書記録

買っても読まず、読んでも特に記録を残さずに思い出に残らないので、年単位で読んだ本と簡単な感想を残しておくことにしよう。 いつも、書評を書こうと思い立つもすぐに断念してしまうので「簡単な感想」にとどめてそのハードルを下げるのが目的である。

横田増生ユニクロ潜入一年』(文藝春秋

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話題になったのは2017年で2020年に読むのはと思うかもしれないが色々なタイミングで今読むことになった。 筆者の潜入ルポものだと3冊目にあたる。 柳井正社長の「うちの会社で働いてもらって、どういう企業なのかをぜひ体験してもらいたい」という言葉に応じて約1年間ユニクロの複数の店舗でアルバイトした記録と下請けである中国やカンボジアの工場で働く人々への取材からなる。 ワンマン体質と徹底した守秘義務は読んでいて非常に不気味である。 柳井社長の部長会議における発言が一貫していないように思われ、君子は豹変するなのか、朝令暮改なのかがわからなくなった。

横田増生潜入ルポ amazon帝国』(小学館

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筆者の潜入ルポもの4冊目。 アマゾンの小田原の倉庫で働いた記録とヨーロッパの取材、マーケットプレイス周辺に潜む怪しい人たちへの取材からなる。 筆者が「ユニクロが「ろくでなし」ならばアマゾンは「ひとでなし」」と表現した通り、秒刻みで終われるピッキング作業、雇用の多重構造による責任の曖昧化などが描かれている。 難癖をつけるならば、筆者はIT周りにそれほど強くないらしく、AWSに関する記述は微妙であった。 AWSのアマゾンっぽいふるまいとしてはオープンソースの扱い方にあると思うのであるが、その辺はITに強いノンフィクションライターの出現を待つほかないのだろうか。

横田増生ユニクロ帝国の光と影』(文藝春秋

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ユニクロ潜入一年』よりも時系列としては前であり、2010年頃の話題なので古い箇所もあるが今もなお読むべき価値がある。 批判的に書かれた企業や経営者に関する本でユニクロがSPAで合理化を進めて大企業へと成長する光の部分と疲弊する現場と言行が一致しない経営者という影が描かれている。 『ユニクロ潜入一年』は変化球であるが『ユニクロ帝国の光と影』は正攻法の取材からなる。 GAPを目標にしてSAPを進め、GAPの凋落とともに綻びが、というのはどの業界にもありうる話である。

世阿弥風姿花伝』(ちくま学芸文庫

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佐藤正英翻訳。 以前、新編日本古典文学全集の『連歌論集 能楽論集 俳論集』を読んだことがあり、そこで読んだ風姿花伝は非常に面白かった思い出があったのだが、 このちくま学芸文庫風姿花伝はその面白さはなく、すぐに眠くなってしまった。なぜ? 最初の「年来稽古条々」で読むのを断念した。なぜ? 翻訳者の違いによるものならば、「日本の古典をよむ」シリーズの風姿花伝にすればよいのか。

日本の古典をよむ(17) 風姿花伝 謡曲名作選』(小学館

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とりあえず表章氏が編集した『風姿花伝』を読んだ。 現代語訳は「タイミング」など大胆に外来語を使うなど現代人が読むのに適した訳文となっていて、ちくま学芸文庫版よりも読みやすいと感じる。 新編日本古典文学全集は持ち歩くのが大変(持ち歩いたこともある)で現代語訳は小さいので原文を気にせず読むにはなかなか大変であるが、「日本の古典をよむ」シリーズのサイズならば持ち運びも簡単である。

別役実別役実のコント教室』(白水社

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新宿紀伊國屋の4Fをウロウロしていると、紀伊國屋ホールから演劇の声が聞こえてきたので演劇関係の本が置いてあるコーナーに向かったら、最近、別役実氏がなくなった、読んだことないけど、と思い出した。 本棚を眺めると、『ハムレット』以外の戯曲を読んだことがなくても読めそうな気がしてきたので手に取った。 笑える(不条理な)コント(寸劇)の書き方を通して戯曲の書き方を学ぶ、といった本で講義と講義内で提出された作品の批評からなる。 もちろん、劇作家や放送作家になりたいわけではないが、非常に面白く読めた。 引用されていた本も1冊買ってしまった。

ウージェーヌ・イヨネスコ『ベスト・オブ・イヨネスコ 授業/犀』(白水社

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別役実のコント教室』で取り上げられていたので、表題作の『授業』だけ読んだ。 詳細はネタバレになるし、不条理演劇としては有名かつ古典なので検索すればあらすじや実際の動画が出てくると思うので割愛するが、フランスかルーマニアの学制を前提としているのか、 日本人にはちょっとわかりにくい舞台設定なので、これを翻案して…という時間があればいいのだが。

酒井大輔『ワークマンは商品を変えずに売り方を変えただけでなぜ2倍売れたのか』(日経BP

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この手の業界本?は批判的にまとめられた良書もあれば単なるヨイショ本まで玉石混交なのだが、これは面白い本だった。 同じ業界であるユニクロに関する本を読んだ経験も合わさってなぜワークマンがうまくいっているのかがわかる気がした。

Steve McConnell 『More Effective Agile ~ “ソフトウェアリーダー”になるための28の道標』(日経BP

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ティーブ・マコネル氏の最新刊。 『アジャイルイントロダクション』と同様に批判的というか活用例に裏打ちされた記述に基づくアジャイル本。 所々心に刺さる箇所があり、1回読んで満足するのではなくて何度も読んで実践する必要があるなと感じた。

すいのこ『eスポーツ選手はなぜ勉強ができるのか』(小学館

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学部の同級生が編集した本。

xaro.hatenablog.jp

フレクスナー 、ダイクラーフ『「役に立たない」科学が役に立つ』(東京大学出版会

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強いデジャブを感じた本

xaro.hatenablog.jp

2020年大反省会

自分以外特に誰も楽しみにしていない、年末恒例の反省会エントリを書く季節がやってきた。

過去のエントリは以下の通りである。

2020/01/18 『データサイエンス設計マニュアル』発売

原書はシュプリンガーで学生時代以来である。 シュプリンガーの邦訳はシュプリンガージャパンが邦訳書から撤退してしまったので邦訳は中々に珍しい気がする。 この時期に発売されるということは、年末年始で作業をしていた人たちがいたのである。 2018年から2019年も作業に追われていたが、2020年の場合も読んでいたと思う。

2020/02/下旬 在宅勤務(リモートワーク)が始まる

腰痛で辛すぎるときは家で静養しつつ仕事をする、というケースは何回か経験したが、普通に家で仕事をするの初めてであった。 やはり通勤がないのは楽であり、今まで通勤に使っていた時間を別のことに費やせるのはうれしい。 業務も、ある程度やることや方針が見えていれば無理して集まる必要もないのである。 とはいえ、相談したいことや、単なる雑談、帰り道による紀伊國屋など難しくなったことも多い。

2020/02/29 PyCon mini Shizuoka 2020で登壇する

「君はcmathを知っているか」という題目はある程度温めていた題材であったものの、意外とまとめようとすると困る題材であった。 どのようにまとめようかと苦心していたが、学部3年で勉強した信号処理を題材にして複素数の威力を示すことができた気がする。 元々は静岡に赴く予定であったが、現地開催が中止となりオンライン開催となった。 今となってはオンラインイベントはかなり一般的になったが、この時期にオンライン開催を決断するのはすごいことだと思う。 自分の発表は通信トラブルに見舞われてしまったのでいつの日かリベンジしたい。

2020/04/13 『Pythonではじめる教師なし学習』発売

昔、コンピュータ技術書には入門書、総合書、クックブックがある、という分類法を聞いてなるほどと思ったことがある。 これは各論というか、機械学習の中でも教師なし学習に特化した本である。 TensorFlowのバージョンの違いを検証するのがなかなか大変である。 サンプルコードを配布する際はコードだけでなく、Dockerfileも配布して環境丸ごと提供する時代になるのだろうか。

2020/05/04 『ゼロからはじめるデータサイエンス 第2版』発売

架空の企業のヴァイスプレジデントが大量に登場する本。 初版はPython 2と3の過渡期で第2版はPython 3に特化という時代の流れを感じる本。 架空の企業とは言え実際の業務に活用できそうなヒントが多い本である。

2020/06/上旬 プロジェクトが混乱する(1回目)

詳細は書けないが、「開発期間は6月から8月です」と聞いていたものが「開発期間は5月から7月ですよ」と6月に聞かされるのはプロジェクトが混乱しているとしか言えない。 UDPによる情報伝達はプロジェクトが混乱するのでやめていただきたいものである。

2020/07/16 『Effective Python 第2版』 発売

初版邦訳が登場したのは2015年であった。 原著がアジソンのサイトに登場してから実際に発売されるまでは相当の時間がかかったが、邦訳は比較的すぐ出た。

2020/08/27 『動かして学ぶ量子コンピュータプログラミング』発売

量子コンピューティングや量子力学は全くの専門外で査読したというよりは詳しい人を連れてきました!というのが僕の邦訳に対する貢献である。

2020/08/29 PyCon JP 2020で登壇する

「インメモリーストリーム活用術」という題目で発表した。 業務で経験したことを発表した形であるが、調査のためにLinuxのファイルの仕組みについて調べたり、ZIPファイルをインメモリーで書き込むという超絶技巧?を披露したりと個人的には満足できた発表である。 オンラインで発表する、という行為にはだいぶ慣れてきたが、オンラインカンファレンスにおける交流はやはり難しいな、というのも経験できたイベントである。 発表自体はカメラとマイクと配信ソフトウェアがあれば可能であるが、質問に答えたり、企業ブースを巡ったり、従来はパーティという形で開催されていた交流はやはり難しい。 トーク以外の要素をどれだけ工夫するか、というのが各々求められていくのであろう。

2020/10/上旬 プロジェクトが混乱する(2回目)

詳細は書けないが、1回目とほぼ同じ要因でプロジェクトが混乱した。 1回目は1回目なので反省して次頑張りましょう、とできるが、2回目なのでこちらは疲れるだけである。

2020/11/09 『データサイエンスのための統計学入門 第2版』 発売

第2版でR言語に加えてPythonが追加された。 単純にPythonを追加したほうが売れるという話かもしれないが、Pythonが広く使われているということを示す証左でもあるのだろう。 学生時代はPythonはマイナー言語で、常駐先のお客さんにおもちゃ言語だよねと言われたこともあったが、今は昔である。

2020/11/16 『Pythonではじめる数学の冒険』発売

PythonとProcessingで数学を学ぶ本。 思えば、高校生の時、情報の時間でExcelを使って三角関数のグラフを書いて遊んでいた。 数学的なオブジェクトを自分の手で書いて描画するのはやはり楽しい行為なのである。

2020/12/24 『計算できるもの、計算できないもの』 発売

プリンストン大学出版会の本。 恐らくJavaで書かれたコードをPythonでそのまま置き換えた、というコードでPythonのコードとしては変わっているが、中身は面白いのでぜひ。 学部で計算理論に関する講義を受けたが、まあそれはそれはひどい講義でありまして。 それなりに分厚い、某教授の書いた計算理論の教科書を買わされた(講師は非常勤講師)が、半年で1章しか消化しない有様であった。 某教授の研究室生は研究室公開で「俺は**研に入ったから勝ち組」みたいな態度を見せる説明で「ここはちょっとアレだな。」という思い出がいまだに残っている。 計算理論は、結局、院生時代に恩師が学部講義でやっていた計算理論とアルゴリズム論の講義に潜ることである程度学んだのである。

全体的な反省

今年も査読を多くこなした。 昨年と同程度の冊数である。 これはオライリージャパンの編集者の仕事のペースがすごいということも意味しているし、Python人気が続いていることも意味している。 外部発表は今年も2回で目標は達成(半期に1回程度が目標)で、題材も業務で得た知識が数学ネタ、ということで個人的には満足している。 仕事は、プログラミング以外の要素でひどく疲弊する機会が多く、困ってしまった。

謎の募集コーナー

  • LinkedIn 簡単な経歴が書いてあります。その手の連絡手段にどうぞ。
  • Forkwell そこそこ詳しい職歴があります。
  • SpeakerDeck 過去の発表スライド一覧です。
  • YouTube YouTube上で公開されている発表動画リストです。

『計算できるもの、計算できないもの』の技術査読を担当しました

計算できるもの、計算できないもの(、計算できるけど難しいもの)

2020年12月24日にオライリージャパンから『What Can Be Computed?』の邦訳である 『計算できるもの、計算できないもの』が発売される。

www.oreilly.co.jp

この度、邦訳の査読者として少しお手伝いさせていただいた。

計算機科学の主要なテーマである計算可能性、計算複雑性に関する本である。 この手の本に登場するプログラムは擬似コードによるものが多かったが、『計算できるもの、計算できないもの』はPythonで書かれている。 Pythonは「読める擬似コード」と呼ばれることもあった(最近は聞かない)が、まさに「読めるし実行できるコード」である(ただし、計算不可能なので実行できないコードも存在する)。 また、Javaによるコードも用意されている。

注意するべき点として、Pythonで書かれてはいるが、計算理論を説明するために特化されている記述であるため、Pythonが全く分からない、という人はこの本を読む前に『Pythonチュートリアル』を流し読みする必要がある。 また、これは私の推測であるが、元々はJavaで書かれていたコードをPythonに置き換えたという段階を経ていると思われ、変数名やクラス名がJavaを彷彿とさせるものになっている。 そのため、よくある「Pythonでわかる○○」のようにスラスラとは読めないかもしれないが、理論的な本で手を動かして読めるというのは中々に貴重な本であるのでめげずに読んでほしい。

ちょうど発売日が2020年12月24日とクリスマスプレゼントにピッタリの本である。 ぜひ、年始年末の読書として挑戦してみてほしい。