何かを書き留める何か

数学や読んだ本について書く何かです。最近は社会人として生き残りの術を学ぶ日々です。

『PyTorchとfastaiではじめるディープラーニング』の技術査読を担当しました

原著者の勢いを感じてほしい

2021年5月27日にオライリージャパンから『Deep Learning for Coders with fastai and PyTorch』の邦訳である 『PyTorchとfastaiではじめるディープラーニング』が発売される。

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この度、邦訳の査読者として少しお手伝いさせていただいた。

PyTorchはディープラーニング(深層学習)のために最適化されたテンソル計算ライブラリであり、 表題であるfastaiとはPyTorch上に構築されたライブラリであり、オンラインコースでもある。

docs.fast.ai

要は、PyTorchとfastaiを用いてディープラーニングをベースにしたアプリケーションを実装するための本であるが、 単なるやってみた系、ライブラリの解説本ではなく、トップダウンディープラーニングを学ぶ本である。

読んでいて感じたのは原著者の勢いである。 やってみた系ではない、と書いたばかりであるが。とにかくやってみよう!という原著者の熱意がすごく、分量に対して早く読むことができる、かもしれない。 その勢いを感じて読み進めると若干面食らうのが「3章 データ倫理」であり、1章、2章にあった勢いとは異なるデータに真摯に向き合う姿を垣間見ることができる。 オライリー・ジャパンから『データサイエンス人材の行動規範』というデータ倫理を扱った本が出版されたが、 まとまった分量できちんとデータ倫理について学ぶことができるのも『PyTorchとfastaiではじめるディープラーニング』のよい面である。

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原著者の勢いはコードにも表れていて、はっきり書くとPEP 8には従っていない。 とはいえ、ロジックが汚いとか破綻しているならともかく、コードスタイルは各々使っているツールにかけて自動変換すればいいので細かいことは気にせず読んで欲しい。

『ユニコーン企業のひみつ』を読んだ。

スタートラインに立ちたい

オライリージャパンさんから『ユニコーン企業のひみつ』を頂きました。 ありがとうございます。

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筆者がSpotifyで勤務して得た経験に基づいてユニコーン企業(評価額が10億ドル規模の企業でありつつスタートアップの様に運営されている企業)の働き方や文化を解説した本である。

せっかく、本を頂いておきながらこんなことを書くのは申し訳ないのだが、読み進めるたびに「うっ頭が」となる辛さがあった。 いつものオライリーの本よりも文字サイズが大きく、A5判212ページで気軽に読める分量であり、読みやすい翻訳であるが、その自分にとっての読書経験は正直言って辛く殴られている感覚であった。 この感覚は別に初めてではなく、過去にバージョン管理がない世界 - 何かを書き留める何かでも経験した痛みである。 「日本の読者の皆さんへ」という邦訳のために書き下ろされたと思われる原著者の言葉が冒頭にあるが、まずそこから大変であった。

これはソフトウェア開発にとっては良い知らせといえます。ですが、競争においては悪い知らせでもあります。 「みんながやっていること」は何の優位にもなりません。 アジャイルはもう「ふつう」なのですから。(邦訳P.vii)

ユニコーン企業のひみつ』としてはアジャイル開発の先にある開発手法や文化の話をする本なのでこのような書きっぷりになるのは当然であるが、読者である私にとっては全くもって「ふつう」ではない。 アジャイルに関してはいくつかの文献を読み、ほんの少しだけの知識はあるが、実践や目撃の経験はない。 私は原著者の考えるスタートラインにすら立っていない。 これは2015年に感じた絶望に近い。

ショックを受けたのは別に序文だけではない。 1章「スタートアップは どこが違うのか」では「期待に応じる機械」という見出しで従来型の企業の働き方を(優劣の問題ではない、としつつも)批判している。 2章「ミッションで目的を与える」は従来の「プロジェクト」(アジャイル開発が前提の!!!)と「ミッション」を対比させながら説明する章である。 原著者は「プロジェクトは(考える)力を奪う」「プロジェクトは間違ったことにフォーカスしている」と説く。 そもそもプロジェクトは納期や予算にフォーカスしているが、それは間違っている、と。

私はスタートラインにすら立っていないし、そもそものソフトウェア開発者としての働き方も間違っているのではないか、と。 それ以降も話は続き、Spotifyにおける当時の組織構成などが説明されるが、そもそもスタートラインにすら立っていない自分にとっては活用も難しい代物であった。 とはいえ、まずはできそうなことをやっていくほかないのである。

ここまで読んだ人が『ユニコーン企業のひみつ』を読みたくなるのかは甚だ不明であるが、少なくとも私のような境遇の方にとっては劇薬になるであろう。 もちろん、スタートラインに立っているような方はその先への歩みを得るためにぜひ読んでいただきたい。

『機械学習による実用アプリケーション構築』の技術査読を担当しました

本番運用まで見据えた機械学習

2021年4月23日にオライリージャパンから『Building Machine Learning Powered Applications』の邦訳である 『機械学習による実用アプリケーション構築](https://www.oreilly.co.jp/books/9784873119502/)』が発売される。

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この度、邦訳の査読者として少しお手伝いさせていただいた。

従来の機械学習本と言えば、数学的な理論を説明する本、ライブラリの解説本、ハンズオン形式など「機械学習とは何か」や「やりたいことをいかに機械学習で実現するか」が主要なテーマであった。 これらのテーマも重要なテーマであるが、実際に実装したシステムを設計、デプロイ、運用するためにはまだ足りない要素がある。 『機械学習による実用アプリケーション構築』は機械学習が関わるシステム運用に必要な要素を埋める、画期的な本である。 目次を読むと何を言わんとしているのかわかっていただけるのではないかと思う。 また、翻訳者の菊池さんが書かれたまえがきは、原著タイトルである「Building Machine Learning Powered Applications」から着想を得た、本書がどういう本なのかを的確に説明しているものである。

機械学習に関わるプロジェクトに参画している方、マネージメントする立場の人たちにおススメである。 ちょうど5月の連休前の発売であり、外に出るのも難しい時節であるので連休中の読書にいかがだろうか。