何かを書き留める何か

数学や読んだ本について書く何かです。最近は社会人として生き残りの術を学ぶ日々です。

数学小話:代数学の基本定理

仕事でも数学を使う。この前は微積分学の基本定理と呼ばれるものをちょっと使った。微積分学の基本定理とは微分積分が表裏一体であるということを主張している。高校ではこれを前提に積分微分の逆演算として定義している。この定理が知られるまでは微分積分は全く別物と思われていた。
基本定理という名を持つ定理として有名なものの1つは代数学の基本定理である。これは次数が1以上の任意の複素係数一変数多項式には複素数根が存在するという定理である。微積分学の基本定理は微積分学の根底を成す定理と言ってもそこまで不自然ではないが、代数学の基本定理代数学の根幹を成す定理と主張する人はいないであろう。代数学の基本定理代数学の一分野である体論の言葉で述べると「複素数体代数的閉体である」という主張である。つまり、代数学全体にまたがる定理ではなく体論で扱える程度の定理である。では何故基本定理という名を冠しているのだろうか。それは代数学をどう解釈するかに掛かっている。
代数学は元々は方程式を解くための学問であった。方程式を解く学問と言う枠組からみれば代数学の基本定理は正に基本である。その流れで行けば5次以上の解の公式を見つけようとするのは至極当然の流れである。連立方程式を解くために今日では行列式と呼ばれるものも開発され、行列式を生み出す母体として行列がでてきた。そして解の形から解同士の関係(置換群)に着目するようになり、Galoisが登場し、方程式論は抽象代数学の一分野になり、代数学の基本定理は体論の成果となった。
仕事をしているとやれこれが社会人の基本だのと宣う人が出てくるが、本当にそれが普遍的なことかなんてわかりはしないのである。代数学の基本定理が方程式論にとっての基本定理であるように狭い範囲でしか成り立たない基本なのかもしれない。脅されても真に受けず冷静に見つめていきたい。